研修の初日、私も一度だけ焼き台の前に立たせてもらったことがあります。タレをくぐらせて網に戻した瞬間、ジュッと煙が上がって、気づいたら端が真っ黒。横で見ていた職人さんに「焦げたら、それはもう“うなぎ”じゃないからね」と笑われました。
焼くのは、思っていたより「待つ」仕事だった
焦がした理由は単純で、早く仕上げたくて火に近づけすぎたからです。焼き色がつくのを見ていると、どうしても手を出したくなる。でも職人さんいわく、うなぎ焼きはほとんどが「待つ時間」。返すタイミングと、タレを重ねる回数を守っていれば、極端な失敗はしにくいそうです。
加盟を検討されている方から「飲食未経験でも本当に焼けるようになりますか」と聞かれると、私はこの話をします。上手な人の手元を見ると、特別な技に見える。けれど中身は、決まった手順を決まった通りに繰り返すことなんだと、焦がした本人として思います。
もちろん、すぐに職人さんと同じ仕上がりになるわけではありません。そこは正直に言っておきたいところです。
未経験の方がつまずきやすいのは、焼きより「ご飯」
研修に何度も立ち会ってきて意外だったのは、未経験オーナーの方が苦労するのは、焼きよりもご飯のほうが多いことでした。
うな重は、タレがしみたご飯まで含めて一つの料理です。硬すぎるとタレがのらないし、柔らかすぎるとべちゃっとする。水の量、炊き上がりからの蒸らし、盛りつけまでの時間。家庭で毎日炊いている人ほど「いつもの感覚」でやってしまって、少しずれるようです。
焼きは目に見えるぶん、意識して練習します。ご飯は見慣れているぶん、油断する。たぶん、そういうことなんだと思います。
研修でいちばん時間をかけてほしいこと
研修では調理・接客・店舗運営をひと通り学びますが、私が個人的に「ここはぜひ」と思っているのは、開店前の仕込みの流れを体に入れることです。メニューの数は多くなくても、仕込みの段取りが崩れると、昼のピークで一気に崩れます。
全部を最初から完璧にする必要はなくて、開業してからも本部の担当がついて相談できます。むしろ最初の数か月は「困ったらすぐ聞く」くらいでちょうどいい。聞かずに自己流で直してしまうほうが、あとで戻すのが大変です。
向いている人、向いていない人
よく聞かれるので、私見ですが書いておきます。料理の経験より、決まった手順を地道に繰り返せる人のほうが、うなぎ屋には向いている気がします。反対に、毎日新しいことを試したい人には、少し退屈に感じる時間があるかもしれません。
ただ、これはあくまで傾向です。飲食の経験がたっぷりあって、そのうえで手順を大事にできる方もたくさんいます。未経験かどうかより、「同じことを、同じように、毎日できるか」。私が面談で一番気にしているのは、たぶんそこです。
ちなみに、私が焦がしたあの一枚は、職人さんが「まかないにする」と言って持っていってくれました。翌週の研修で聞いたら「苦かった」とだけ言われました。
画像提供:Unsplash
