「うなぎ屋って、結局は土用の丑の日で1年分稼ぐ商売でしょう?」。加盟のご相談で、いちばんよく聞かれる質問かもしれません。実を言うと、この仕事を始めた頃の私も、ほとんど同じことを思っていました。
始めた頃:7月のカレンダーしか見ていなかった
FC開発の担当になって最初の夏、私が気にしていたのは丑の日の予約数だけでした。前の月から予約表を毎日のぞいて、件数が増えるたびに一喜一憂していたのを覚えています。
当日は確かにすごいんです。開店前から並ぶ人がいて、焼き場は朝から休みなし。夕方には「本日分終了」の札を出しました。
ところが、問題はその翌週でした。
客席がすっと静かになる。店長さんと「まあ、反動ですかね」なんて話していましたが、8月の後半になっても戻りが鈍くて、正直かなり焦りました。丑の日に頼る考え方のままだと、残りの11か月をどう埋めるかがまるで見えていなかったんです。
試行錯誤:売上表を1年分並べてみた
反省して、その秋に店の売上を月ごとに並べ直しました。並べてみると、波は夏だけではなかったんです。
年末年始、お盆、お彼岸の前後。法事や顔合わせ、長寿のお祝いでの個室予約。それから、お歳暮やお中元の時期の持ち帰りや贈答の注文。どれも丑の日ほどの山ではないけれど、小さな山が1年にいくつもある。
うなぎは「ちょっといいものを食べたい日」に選ばれやすい料理です。その「ちょっといい日」は、夏だけに来るわけではない。当たり前のことなのに、表にして初めて腹に落ちました。
落ち着いた今:「ハレの日の予定表」を店に置く
今、開業前の研修でお伝えしているのは、地域のハレの日を1年分カレンダーにしておくことです。地元の祭り、入学や卒業、成人式、敬老の日、お盆の帰省。学校の行事が多い地域なら、運動会の週末に家族での来店が増えることもあります。
このカレンダーがあると、販促の段取りが前倒しできます。法事やお祝いの予約は1か月前くらいから入り始めるので、そのタイミングに合わせて店頭やSNSで個室や折詰の案内を出しておく。それだけで、予約の入り方がずいぶん変わる店もありました。
個人的にいちばん好きなのは、冬の持ち帰りです。寒い日は外食を控える人が増えますが、「家でうなぎを食べよう」と寄ってくれる方がいる。焼きたてを手渡すときの「あったかいうちに食べてくださいね」の一言は、夏の行列よりも、店とお客さんの距離を近くしてくれる気がしています。
もちろん、これは地域によります。観光地の店なら観光シーズンの波のほうがずっと大きいでしょうし、オフィス街なら平日のランチと宴会の比重が上がる。うちの考え方がそのまま当てはまらない場所もあると思います。
それでも、丑の日はやっぱり特別
ここまで書いておいてなんですが、丑の日を軽く見ていいとは思っていません。1年でいちばん多くの人がうなぎを思い出す日で、新しいお客さんと出会える日でもあります。
大事なのは、その日に来てくれた初めての方に、「次はお祝いのときにまた来よう」と思ってもらえるかどうか。丑の日はゴールではなくて、1年の入口くらいに考えておくと、ちょうどいいのかもしれません。
あの最初の夏の、静かになった8月の客席。いまでも7月が近づくと、少しだけ思い出します。
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